ADHDの方は「すぐに気が散って落ち着きがない」「やるべきことを先延ばしにしてしまう」といった様々な問題を抱えています。
しかしこれらの特性はかつて狩猟採集時代には非常に役立つ能力であり、ADHDが持つ好奇心旺盛な行動力が多くの獲物をもたらしていたとする説があります。
ADHDについて幾つもの著作を持つアメリカ人トム・ハートマンは、著書『ADD/ADHDという才能』(※)の中でADHDはハンター(狩人)だと述べ、現代を生きるADHDの方たちにエールを送っているのです。
残念なことにADHDの特性は、現代社会ではマイナスに働くことが多いのも事実でしょう。
けれど自分の長所と短所を理解してその短所をカバーできれば、今よりも自分らしく生きられるのかもしれません。
※「ADD」は過去に使用されていた診断名であり、現在では「ADHD」という診断名に変わっています。この変更を機に不注意だけでなく多動性も重要視されるようになりました。
ADHD(注意欠如・多動性障害)とは
ADHDの日本語の病名は注意欠如・多動性障害といい、その名の通り「注意欠如」や「多動性」、そして「衝動性」が主症状の発達障害です。
発症原因は解明されていませんが、生まれつきの機能異常によって神経伝達物質に偏りが生じることで起こると考えられており、症状により日常生活に支障が出ることもあります。
たとえば注意欠如の特徴は「忘れ物が多い」「片付けが苦手」、多動性は「過度なおしゃべり」「椅子に座っていられない」、衝動性では「気に入らないことがあると手が出る」「順番が待てない」などがあり、日常生活でのトラブルを抱えてしまうことも多いのです。
どの特性が強く現れるかは年齢や性別によっても異なるため、一人ひとりの特性に合った対応が必要とされています。
またこれらの特性は、親や周囲からのフォローが得られやすい子供の頃は気づかない場合もあります。
しかし大人になってやることが多くなり、より高度で複雑な対応を求められるようになってから、問題が顕在化するというパターンもあるのです。
ADHDは以下の3つのタイプに分類されます。
1.不注意優勢(不注意が目立つ)
・忘れ物やなくし物が多い
・話しかけても聞いていない
・約束などを忘れてしまう
・気が散って集中できない
・ケアレスミスが多い など
2.多動性・衝動性優勢型(落ち着きがない、思ったことをよく考えずに行動してしまう)
・手足をそわそわ動かしている
・座っていられない
・じっとしていられない
・順番待ちが苦手
・過度なおしゃべり
・人の言葉を遮る
・思い通りにならないと乱暴になる など
3.混合型(不注意優勢型と多動性・衝動性優勢型が混在している)
参照:文部科学省HP「ADHDの定義と判断基準」 https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/054/shiryo/attach/1361233.htm
参照:NCNP病院HP「ADHD(注意欠如・多動症)」 https://www.ncnp.go.jp/hospital/patient/disease07.html
ADHDの方がやってしまいがちな仕事のミス
大人のADHDには不注意優勢型が多いといわれています。
ここではADHDの方が仕事をする上で、してしまいがちなミスについてお伝えします。
ケアレスミス
注意欠如や衝動性の特性を持つADHDの方は、その特性上ケアレスミスを多発する傾向があります。
集中することが苦手な方は「うっかりミス」を、衝動的でせっかちな方は「勘違いミス」をしてしまうのです。
段取りやマルチタスクが苦手
ADHDは物事を抽象的に考えたり、順位付けしたりするのが苦手な方が多い傾向にあります。
そのため複数の業務があると「どれを最優先にすればいいのか分からない」といったことになりがちです。
また優先順位が分かっていても、他に興味をひかれる業務があると先に手を付けてしまうといった衝動性も、ADHDの方がマルチタスクを苦手とする原因でしょう。
先送り癖
「忘れていたわけじゃないけど、つい納期を先延ばしにして約束の期日に間に合わなくなった」そのようなトラブルは、ADHDの実行機能の弱さが原因とされています。
その時やりたいことを優先してしまうため、本来しなければならないタスクを先延ばししてしまうのです。
集中できない
不注意優勢型タイプの方は注意が別のところにいってしまい、ひとつのことに集中しづらい傾向があります。
不注意の特性が強く働くと「一つの作業を終える前に違う作業に手を付けてしまう」といったことになりがちです。
抜け漏れが多い
「上司に指示された業務をするのを忘れてしまった」このようなトラブルは、ADHDの方のワーキングメモリーが少ないからだといわれています。
ADHDのワーキングメモリの容量は、定型発達と比べて少ないことから、指示を覚えきれずに抜けや漏れが出てしまう傾向があるのです。
仕事のミスを減らす工夫3選
弱点を可視化できたら、どうすればミスを回避できるのか考えてみましょう。
しかしADHDの特性上、自分の努力だけではどうにもできないこともあるかもしれません。
そのような時はツールを利用したり、周囲に協力を仰いだりして、自分の特性と上手く付き合っていきましょう。
1.リスト化を徹底する
TO DOリストを作成してスケジュールの見える化を図ります。
やることを書きだし、完成したらチェックマークや横線で消すなど、進捗状況が一目でわかるようにしておくことがポイントです。
職場環境に合わせてスマホアプリやパソコンなど、デジタルデバイスでタスク管理する方法も有効でしょう。
業務をリスト化する際に、たとえば「急ぎで取引先に電話をかける」「資料を作成して20部コピーする」「明日の会議の資料を確認する」といった複数のタスクがあれば、最初に優先順位をつけます。
またその際にタスクを細分化することも、抜けや漏れを防ぐポイントです。
この場合①「取引先に電話をかける」②「資料を作成(1時間)・資料を20部コピー(10分)」③「明日の会議の資料を確認(30分)」といったリストを作ることで、スケジュール管理をしていきます。
【リスト化のPoint!】
・タスクを細かくリスト化する
・事前に優先順位をつけておく
・どのくらい時間がかかるのか記載する
2.周囲に声がけを頼む
せっかくリストを作っても「リストを確認するのを忘れていた」といった事態が起こることもあります。
そういったトラブルを回避するために、可能であれば周囲に手助けを求めてみましょう。
上司や同僚とTO DOリストの内容を共有し「午前中に①の取引先への電話と②の資料を作成してコピーするところまでは終わらせたいので、11時頃に進捗状況について声をかけてください」といったように、協力を頼んでみるのも一つの方法です。
3.アプリやツールの利用を
職場環境によってはスマホのカレンダーやスケジュール帳など、デジタルデバイスを利用してスケジュール管理を行う方法もあります。
作業時間を記録しておくことで業務に必要な時間を把握でき、次に似たような業務をする際の目安にもなります。
常に持ち歩くスマホを利用したタスク管理は、使い方次第で仕事だけでなく日常生活の困りごとも減らせます。
また時計のアラーム機能を利用するのも、時間間隔をとらえるのが苦手なADHDの方には有効な時間管理術です。
【おすすめタスク管理アプリ】
・タスクペディア……タスクを細分化してくれるので優先順位をつけるのが苦手な方にも使いやすい
・リマインくん……ラインのボット機能でタスク管理。使い慣れたラインを利用できる点も安心
・ルーチンタイマー……シンプルな機能で毎日の決まった時刻にお知らせしてくれるので生活リズムを整えるのに有効
・Googleカレンダー……シンプルで使いやすいスケジュール管理アプリ。リマインダー機能付きで、仕事からプライベートまで幅広くつかえる
ADHDの方に向いている仕事の探し方
「向いている仕事」「向いていない仕事」は誰しもあるでしょう。
ADHDの特性に合うといわれている仕事や、求職に際して受けられるサポートについてご紹介します。
すべてのADHDの方にこれらの仕事が向いている訳ではありませんが、サポートしてくれる機関と相談しながら、自分に合った職場を見つけてください。
ADHDの特性に合った仕事
ADHD特性のある方は行動力があったり、判断が早かったり、好奇心旺盛といった様々な長所も持ち合わせています。
マルチタスクを求められる仕事が苦手な一方で、自分が興味のあることには深く没頭することもできるため、専門的な知識や技術、想像力が求められる仕事が向いているでしょう。
具体的にはエンジニアや営業職 ・ 研究職といった専門的な仕事や、デザイナー・イラストレーター・ カメラマンといったクリエイティブな仕事の方が向いているといわれます。
好奇心旺盛で行動力がある方は、自由度の高い働き方ができるという点で起業するという道もあります。
求職のためのサポート機関
ADHDが受けられる就労支援サービスは多くあります。
自分の特性をよく理解してもらい、自分に合った職場探しをしましょう。
・就労移行支援事業所
障害や難病をお持ちの方で、一般企業への就労を希望されている方をサポートする福祉サービスが就労移行支援です。
就労移行支援事業所に通いながら健康管理やビジネススキル、具体的な再就職に必要な応募書類作成や面接対策など多岐にわたりアドバイスを受けられます。
また就労定着支援を行っている事業所も多く、就職後のケアも安心です。
・発達障害者支援センター
発達障害者支援センターは発達障害者全般の支援機関です。
発達障害を持つ方と家族の豊かな地域生活を実現するために、保健、医療、福祉、教育、労働など各機関と連携して包括的な支援を行っています。
各都道府県に1か所以上設置されているので、ご利用を検討されている方はお近くの支援センターにご相談ください。
参照:発達障害支援センター・一覧 http://www.rehab.go.jp/ddis/action/center/
・ハローワーク
就業の支援といえば真っ先にハローワークを思い浮かべる方も多いでしょう。
ハローワークには障害のある方専門の窓口もあるため、自分にどのような職場での就業が可能かを相談できます。
まとめ
今回はADHDの方が仕事でしてしまいがちなミスやその対処法などをお伝えしました。
冒頭でご紹介したトム・ハートマンは、著作の中で次のように述べています。
「ADDの人たちに、現代社会、つまり、ADDでない人々(ファーマー)によって作られた社会で、ADDを持つ人(ハンター)でいることのジレンマとうまく付き合っていく術を身につけてもらいたいと思っています。」
(トム・ハートマン著・片山奈緒美訳『ADD/ADHDという才能』2003年VOICE社P.5)
私たちCOCOCARAは、就労移行支援事業所として、障害等の事情があってお仕事に就くことに苦労している方に対して、相談や就職準備、アドバイスなどのサポートを行っています。
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